ネルドリップとは?正しいいれ方やお手入れ方法は?

監修  キーコーヒー コーヒー教室 シニアインストラクター
金井 育子(かない いくこ)
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ネルドリップは、「ネル」と呼ばれる布のフィルターを使って、コーヒーをいれるドリップ方法です。コーヒーファンから根強い人気のある抽出方法でもあります。そんなネルドリップの基礎知識と、「正しいいれ方」についてご紹介します。

ネルドリップの基礎知識

 

ネルドリップとは

ネルドリップは、コーヒーの抽出方法の1つです。「ネル」と呼ばれる布製のフィルターを使用して、コーヒーをいれます。ネルは「フランネル」の略です。フランネルとは、柔らかく軽い毛織物の事を指します。 ネルドリップは、コーヒーの抽出方法の中でも長い歴史があり、コーヒー愛好家からも人気のある「最もおいしい抽出方法」と呼ばれているいれ方です。

「ネルドリップ」と「ペーパードリップ」

ペーパードリップとは、紙製のフィルターを使用してコーヒーをいれる抽出方法です。現在最もポピュラーな抽出方法となっています。 それ以前は、ネルドリップで大量にコーヒーを抽出するのが一般的でした。しかし、ネルドリップで大量にまとめていれると、時間が経ってしまったときに、温め直して飲む必要がありました。このような背景から、1959年に、1杯からドリップができる、ペーパードリップが誕生しました。 (*現在では、ネルドリップでも1杯ずつ抽出できる、小さいネルも販売されています。)

ネルドリップでいれたコーヒーの味とは?

ネルドリップは、まったりとした口当たりがあり、飲みごたえの満足感が高い事が特徴とされています。また味わいにほんのりとした「甘み」が感じられるのも特徴です。 これはネルドリップのネルが、ペーパードリップに比べて目が粗いため、「コーヒーオイル(油分)」が抽出されている事が理由です。 一方でペーパーフィルターは、比較的「スッキリ」「クリア」な味わいになります。 これは、ペーパーフィルターが紙製のフィルターを使用して抽出をするため、コーヒーオイルを吸収しているからと言われています。

ネルドリップの魅力とは?

ネルドリップをすることの醍醐味は、「手間」をかけて抽出する事です。 紙製のフィルターであれば「使い捨てができる」という手軽さから、60年代以降は、ペーパードリップが浸透していきました。一方でネルドリップは、ネルを繰り返し使用する事から、水洗いや保管に手間がかかるため少数派になってきました。 しかし、その「手間」こそが「おいしさの秘訣」として、一部のコーヒー愛好家から支持を得ています。 手間をかけて、ドリップをする事で得られる味わいは、ペーパードリップとはまた異なった趣があります。またネルドリップ特有の「滑らかな舌触り」と甘みのある味わいは、そのコーヒー豆の魅力を最大限抽出できるとして、人気が高いのも事実です。 これこそがネルドリップが、「最もおいしい抽出方法」と呼ばれる所以でもあります。

ネルドリップのいれ方① 準備をする

01. 必要な器具を準備する

1 ネル まずはネルを準備します。 抽出予定分に応じたネルを準備しましょう。
2 ハンドル ネルを装着する専用のハンドルです。 ネルの大きさに応じたものを準備しましょう。
3 ネルドリップ専用サーバー ネルドリップは専用のサーバーを準備します。 専用のサーバーがない場合は、ペーパードリップのサーバーも使用できますが、ネルとハンドルを立てる「スタンド」が必要となります。
4 ケトル コーヒー抽出用の専用ケトルを使用します。 専用ケトルは、注ぎ口が長細く、お湯をコントロールしやすくなっています。 こちらのケトルはお湯を沸騰するまで温めても*突沸になりにくく、ステンレス製のため保温性も高いので、抽出に重要な温度のコントロールがし易いという特徴があります。
「*突沸」とは? 沸点以上の過熱状態になっている液体が、突発的に激しい沸騰を起こす現象の事です。やかんなどで沸騰させると、お湯が注ぎ口から溢れ出る事があります。一方でコーヒー抽出用の専用ケトルは、注ぎ口が長いため突沸を防ぐ事ができます。
5 コーヒー豆 新鮮でおいしいコーヒー豆をご用意ください。 今回は、キーコーヒーの「トアルコ トラジャ」を使用しています。
ネルドリップに適した豆は? ネルドリップだからといって、使用できない豆はありません。「浅煎り」~「深煎り」までお好みのコーヒー豆を選んでください。
6 カップ 抽出後、すぐにカップへ注げる状態にするため、事前にカップを用意しておきましょう。

02.ネルの下準備をする

1 ネルが新品の場合はコーヒー粉と煮る 新品の場合は、まずぬるま湯でしっかりと「糊気」を落とします。 布が浸かるくらいのお水を入れた鍋に(目安として水が500ccの場合はコーヒー粉5gくらい)コーヒー粉を入れ、沸騰したら弱火にして、沸かない程度に15~20分間煮ます。 この方法で新品のネルにコーヒーの成分をなじませます。
2 水洗い 煮込み終わった後は、鍋から取り出して、コーヒー粉が取れるまで流水で洗います。 新品でない場合は、冷水に保管している布を取り出し流水で洗います。 しっかりと水洗いができたら、水気がなくなるまで絞ります。
注意する事は? 高い温度で洗うと、ネルに残ったコーヒーの油脂分が不快な香りになる事があります。温度が高くなると布にしみ込んだ成分が溶け出してくるためです。コーヒーは香り物なので、布自体に香りがあると、味に影響を及ぼしてしまう可能性があるからです。
3 水気がなくなるまで絞る 水洗いができたら、水気がなくなるまでしっかり絞ります。 3~4回、繰り返してください。
絞れているかどうかの判断は? ネルの起毛面が「毛羽立っているか」どうかに注目します。寝ている状態だと「絞りが足りない」状態。絞りが足りないと抽出時のお湯の温度が下がるため、抽出効率が悪くなり、香りや味わいに影響します。
絞り方のコツ 少し毛羽立っている方を外側にして絞リます。ネルの厚みのある部分は、水が溜まりやすいため、特にしっかりと絞ります。

03.ネルをハンドルにセットする

1 ネルをハンドルにセットする 縫い目が外側になるようにして、ハンドル用の縫い目に通していきます。
2 ネルの形を整える ハンドルに通せたら、縫い目のない方を内側にしてコーヒー粉が入れられるように形を整えます。

04.お湯を注いで器具を温める

1 湯を準備する ケトルには8分目程の湯を沸かしておきます。 湯が少ないと注ぐ時の傾けが大きくなり、湯のコントロールがしづらくなりますので、出来上がり量の2~2.5倍の量は用意しましょう。
2 ドリップサーバーを温める ネルドリップ用のサーバーに湯を入れて温めます。 温める事で、コーヒーを抽出する時の保温効果があり、濾されたコーヒー液の温度低下を防ぎます。
3 カップも温めておく カップにもお湯を注いで、温めておきます。 出来上がったコーヒー液の温度が下がってしまう事を防ぐと共に、香り高いコーヒーを長く楽しむ事が出来ます。 このように抽出前から「器具を温めておく」という一手間が、コーヒーをよりおいしく楽しめる秘訣となります。
4 ネルをセットする お湯を捨てて、コーヒーサーバーが十分に温まっている事が確認できたら、ネルをのせます。 ネルのセットができたらこれで、下準備が完了です。

ネルドリップのいれ方② 抽出する

01. コーヒー粉を準備する

1 コーヒー粉を量る ネルにコーヒー粉を量り入れます。コーヒー粉10gを使用して、出来上がり量は120cc(コーヒーカップ8分目)が一般的な量になります。 今回はネルドリップ用に中挽きにしたものを用意しました。2杯分なので20gのコーヒー粉を入れます。
2 粉をならす 少しネルをゆすって、コーヒー粉の表面を平らにします。 これでセット完了です。

02. 蒸らし

1 蒸らし① ケトルの熱源は一番弱くします。 1回目のお湯を注ぎます。 中央からゆっくりとお湯を注ぎ、コーヒー粉全体にお湯を染み込ませます。
2 蒸らし② ネル全体にお湯が染み込むと、ポタポタとコーヒー液が落ちはじめます。
3 蒸らし③ この時にネルの中をのぞくとキラキラした泡が出ている事が確認できます。キラキラとした泡が消えると、次に穴がボソボソと出てきます。 穴がボソボソと出てきているという事は、コーヒー粉の中心にまでお湯が浸透して、ガスが抜けていると言う事です。 これが「蒸らし」の工程です。蒸らしはコーヒーをおいしくいれる上で最も重要な工程となります。

03. 抽出する

1 2回目を注ぐ① 「蒸らし」が完了したら、2回目を注ぎます。ケトル注ぎ口を中央で上下して泡を出します。
2 2回目を注ぐ② 中心から泡が出てきたら、泡の周りをゆっくり「の」の字を描くように1周注ぎます。その際はネルに湯が直接かからない様に注ぎます。
ネルにかからないようにする理由とは? ネルにかかると、コーヒーに十分に触れずに抽出された液体が落ちてしまいます。そのため薄いコーヒーになってしまう可能性があるのです。ネルの気持ち内側にかけると、外側にも内側にもお湯が行き渡り、正しく抽出が行えます。
3 全部で5回〜6回に注ぎわける 泡が丸いお饅頭みたいに膨らみ、その後凹んできます。凹んでいく動きが止まる前に、次のお湯を注ぎます。 新しい泡は白くなるので、この白い泡の層が消えないうちに注ぐのが次のタイミングとなります。 3回目以降も2回目と同じ方法で注ぎ、計5~6回位に分けて注ぎます。 泡が消えないうちにお湯を注ぐと、いれ終わっても表面に泡が残っています。

04. 抽出 ~ 完了

1 ネルを取り外します 出来上がり量になったら、ネルを取り外し、ボールに受けます。 「蒸らし」~「ネルの取り外し」まで、3分間が目安となります。
正しく抽出できたかどうかの目安は? いれ終わった時、表面に「泡が残っているか」どうかを確認します。泡が残っている状態が確認できると、注ぐタイミングがズレていなかった目安となります。
2 カップに注ぐ 抽出されたコーヒーは下の方が濃くて上の方が薄くなるので、軽く揺すり濃度を整えます。もしくは、スプーンなどで混ぜます。 温めたカップへ注ぎ分けてください。こちらでネルドリップの抽出が完了です。

器具のお手入れ方法

1 抽出後のコーヒー粉を捨てる 抽出が完了したら、このようにネルにコーヒーカスが残っているので、コーヒー粉を捨てます。
2 水洗い 捨てきれなかったコーヒー粉を洗い流し、コーヒーカスがなくなるまで、しっかりと洗います。 最初の水洗いと同様、流水で洗います。
3 保管する ネル全体が浸かるまで冷水と氷を入れ、蓋付きの容器で冷蔵庫に、保管します。 ご家庭でも朝昼晩の3回は、水を交換する事をお勧めします。
水の交換が難しい時は 氷をたくさん入れて冷蔵庫に入れておきます。あるいは、水枕をつくる要領で、チャック付の袋に入れて冷凍します。使う時は流水で解凍します。

プロによるネルドリップで美味しくコーヒーをいれるアドバイス

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ネルドリップでは「布の管理」がとても大切です。その布を使用の都度洗い、固く絞ってから使用します。 いれ方では、1番初めの蒸らしでおいしさが決まります。その後の2回目に「おいしそうな泡がたっぷりと膨らませられるか」が大切です。この2回目迄で、コーヒーの半分以上の味が決まります。この前半の2つが最大のポイントとなります。 また、いれ終わったコーヒー粉の表面に泡が残っているかどうかも大切です。泡が残っていると注ぐタイミングが良かった事、上手にドリップができている事が分かります。 ネルドリップだけに関わらず、「ドリップをする」のは、手間はかかります。しかし、手間がかかった分だけ「おいしさ」は倍増します。ぜひ、丁寧にドリップをする過程を楽しんください。そして、おいしいコーヒーを飲んでくださいね。

抽出器具別 おいしいコーヒーのいれ方

抽出器具別のおいしいコーヒーのいれ方動画をまとめました。 毎日のコーヒーのいれ方のご参考にしてくださいね。 https://onlineshop.keycoffee.co.jp/shop/pages/video.aspx

記事監修

金井 育子(かない いくこ)

  • ・キーコーヒー コーヒー教室 シニアインストラクター
  • ・キーコーヒー コーヒースペシャリスト上級資格
  • ・J.C.Q.A(全日本コーヒー検定委員会)認定 コーヒーインストラクター1級
  • ・各種専門学校、カルチャースクールの非常勤講師
1985年入社、コーヒー教室配属。講習アシスタントとして、コーヒー業界のキャリアをスタートさせる。 1993年から、15年間にわたり首都圏の主婦を対象に行ったコーヒー教室の企画では、約300回開催、累計4,500名以上に講習を行った。 キーコーヒーが定期的に行っていた、喫茶開業者向けの講習は、1994年に講師として勤め、さらに99年からは調理製菓各専門学校の非常勤講師も担当している。 2008年にはコーヒーセミナーとして一般の方が受講できるようにカリキュラムを変更するなど、様々な方にコーヒーのおいしさと楽しみ方を、講習を通じて伝え、活躍の場は絶えない。